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2007年1月31日

硫黄島から帰る

※ネタバレ注意
この記事には映画「硫黄島からの手紙」の内容に触れている部分があります。
これから映画を鑑賞する方はご注意ください。

私は、戦地から帰って来る兵士、特に激戦地から帰って来る人たちは、
きっと運が良かったのだろうと思っていました。
勿論、運が悪ければ帰って来られないでのしょうが、
クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」を見たら、
他にもう一つ条件があるように思えてきました。

「硫黄島からの手紙」には、西郷という名の若い兵士が登場します。
硫黄島での戦いを指揮した実在の人物、栗林忠道中将とともに
物語の中心となる人物です。

「こんな島アメ公にくれちまえばいいんだ」とこぼすのを聞かれ、
上官から鉄拳制裁を喰らう西郷。
仲の良い戦友との雑談では、いつも軍の横暴さ、理不尽さに愚痴をこぼしています。

やがてアメリカ軍が上陸。西郷の戦う摺鉢山はあえなく陥落します。
司令部の栗林中将からは、撤退して他の部隊に合流するよう命令が下されますが、
その場にいた上官は、全員に自決を命じます。

次々と手榴弾で自決する兵士たち。
西郷と仲の良かった戦友も、家族の写真を抱いたまま吹き飛ばされます。
その姿を見て怖じ気づき、なかなか自決できない西郷。
そんな西郷を尻目に、上官は先に拳銃で自決してしまいます。
結局取り残された西郷は自決せず、栗林中将の指示通り他の部隊へ合流します。

つまり、怖くて死ねなかったわけですが、むしろそれが正常な感覚でしょう。

「名誉の戦死」という言葉は、死を恐れて士気が下がるのを防ぐためのものです。
ところが、いつの間にか履き違えられ、
戦死そのものが美化され奨励されるようになってしまいました。
たとえ戦いに勝っても、多くの兵士が死んでしまっては意味がありません。
また、負けたのであれば、とにかくその場は逃げ帰り、
以前より成長した経験豊かな兵士として再度出撃した方が、
その後の戦いを有利に進められます。
徒に玉砕などして無駄に兵力を消耗しては、戦いを有利に進められるはずもなく、
かえって「天皇陛下の御為」にもなりません。

そんなでたらめな思想で動く軍隊に素直に従えるはずもなく、
しかし、逆らえるわけでもなく、多くの人は気付かない振りをして、
仕方なく「玉砕」したわけです。
それでも中には、西郷のように軍のやり方に疑問を持ち、
戦場でも自分の考えに従ってしまう人たちがいました。
戦後の復興を支えたのも、そうして帰ってきた人たちです。

劇中で西郷を演じた二宮和也さんの談話が映画のパンフレットに載っています。

おじいちゃんやおばあちゃんが、「最近の若い者は」って言う気持ちが
少しだけわかるようになりました

最近の若い者は自分の頭で物事を考えないから、
あんな嘘っぱちのテレビ番組なんかに騙されるんだ。
そのうちお上の都合のいいように洗脳されて、大変な事になってしまうぞ‥‥

二宮さんのおじいちゃんの世代に当たるイーストウッド監督が
この映画に込めた多くのメッセージの中には
そんな事も含まれているのかも知れません。

2007年1月31日 23:33 | カテゴリー:よしなしごと